ARを体験するために欠かせないARアプリについて、その仕組みや代表的な種類、さらに開発方法などをご紹介します。
ARアプリとは
ARアプリとは、ARを見る時に必要なアプリケーションのことを指します。スマートフォンなどのデバイスにARアプリを入れることで、そのデバイスを使ってARを楽しむことができます。
ARアプリの仕組み
ARアプリは、以下のいくつかの手順を経て現実世界を拡張する情報を表示します。ARが表示されるまでのプロセスを簡単にご紹介します。
デバイスの位置情報と周辺情報を読み取る
デバイスの位置情報とは、ユーザーが「何を」「どこから」見ているのかを識別するために必要な情報です。この情報があることで、ARアプリは任意の場所に情報を表示させることができます。ARアプリは、位置情報と同時に周辺環境も認識します。正確な場所に意図通りのARを表示させるために、屋内であればどこが床面なのか、屋外であればどこに建造物が建っているかなどを把握するのです。
特定の位置に情報を表示させる
デバイスの位置情報と周辺の情報を正確に読み取ったら、そこに任意の情報を表示させます。表示させる情報は動画や画像、3Dなど別途素材として事前に作成し、その情報を表示させたい位置はマーカーやGPS情報で指定します。
マーカーの種類
ARを表示させる場所を指定するマーカーは、種類によってそれぞれ名称があります。まず、画像から認識された何らかのオブジェクトに対応してARを表示するタイプのものは、ビジョンベースARと呼ばれます。AR用の正方形のコードを読み取るタイプや、建築物などの現実世界のオブジェクトをそのままマーカーとして読み取るタイプがあります。一方、GPS情報をもとにARを表示するタイプのものは、ロケーションベース型ARと呼ばれます。屋外でもAR情報を指定することができ、一定のフィールド内で複数のARを表示させる必要のあるコンテンツに適しています。マーカーはそれぞれ特徴があり、パンフレットなどの紙面に情報を付加したいならビジョンベースAR、屋外の特定の場所に情報を付加したいならロケーションベースARというふうに使い分けなければなりません。双方のマーカーは併用することもできるので、ひとつの企画に複合的にそれぞれの技術が使われているケースもあります。
代表的なARアプリサービス
次に、ARアプリをうまく活用したサービスをいくつかご紹介します。
拡張現実の魅力をシンプルに感じられる「Pokemon GO(ポケモンGO)」
(引用元:PokemonGO)
町を冒険しながらポケモンを獲得していく物語が一躍人気を集め、今や世界のヒット作として認知されているゲームコンテンツである「ポケモン」。その感動を現実世界で疑似体験できるアプリが「ポケモンGO」です。自分が歩いている場所に出没するポケモンにポケモンボールを投げるアクションは、実際にその場にいるポケモンと対峙しているような感覚をプレイヤーに与えます。
写真加工に新たなトレンドをもたらした「SNOW」
(引用元:SNOW)
SNOWは若者向けの写真加工アプリですが、顔を認識し、その顔に様々な加工を加えるモードが人気を集めました。犬の耳や舌などが自動的に自分の顔に表示され、顔の動きに合わせて様々なアクションを起こします。このように、顔をマーカーとして様々な情報を表示する技術は「ARマスク」と呼ばれています。SNOWが提供するARサービスは、単なる写真撮影機能としてではなく、一種のエンターテインメントとしてユーザーの心に響いたようです。
家具の購入前にシミュレーションできる「IKEA PLACE」
世界的ブランドとして人気を誇るインテリアショップ「IKEA」からリリースされたアプリ「IKEA PLACE」は、IKEAの商品を自分の住環境に重ね合わせ、サイズや色が合うかを確認できるアプリです。
(引用元:IKEA PLACE)
家具の購入には事前の寸法確認など手間が多く、なおかつ高価な買い物なのでハードルが高いという課題がありました。ARを用いることでそれらの課題を簡単に解決することができるため、ユーザーは安心して商品を購入することができます。
日常的に使えるARの利便性「Measure」
「Measure」はスマートフォンなどのデバイスで映した対象の長さを計測するアプリです。机など身近にあるものに利用することはもちろん、建造物や遠目にしか見られない展示品など、本来であれば計測不可能なものまで計測することができます。
ARアプリの種類
様々な領域で人気を集めるARアプリの活用例をご紹介しましたが、こういったARアプリはどのようにカテゴライズすることができるでしょうか?現状のリリースから分けられるARアプリの種類について考察します。
ゲーム・エンターテインメント体験を作るAR
もっとも多く見受けられるのはゲームやエンターテインメント体験にAR技術を用いているものです。現実世界と架空の設定を組み合わせることで、これまでの体験とは違った刺激を与えられることが、本領域でARを用いるメリットです。
シミュレーションを目的としたAR
不動産業やインテリア・アパレルの小売業などで活用されているのが、シミュレーションをするためのAR利用です。購入前に試すことが難しい商品を、ARで事前に確認できることが、ユーザーの商品購入への意識を高めることにつながります。
ユーザーの周遊を促すAR
限定された地域内で、観光情報などを付加することで周遊効果を高めるARアプリは、観光業や地方自治体の取り組みなどで多く見受けられます。観光客はARを通じてより多くの地域に根ざした情報を得ることができ、印象に強く残る旅行体験を実現できるでしょう。スタンプラリー企画などをARアプリに併用するケースもあり、その地域を存分に楽しむための仕掛けとしてARが役立っています。
ARアプリの開発について
では、こういったARアプリはどのような開発ツールを用いて作られているのでしょうか?ARアプリの主流となる開発ツールは、AppleとGoogleによって提供されています。
Apple AR Kit
(引用元:Apple AR Kit)
Appleが提供するApple AR Kitは、iPhoneやiPadなどApple社製品をデバイスとして動くARを開発するためのプラットフォームです。動作確認をする機種が少ないことから、より精度の高いアプリケーションの構築ができる点がメリットです。
ARCore
(引用元:Google AR Core)
ARCoreはグーグルが提供するAndroid向けのAR開発ツールです。ARCore対応のスマートフォンは徐々に追加されている状態なので、機種に応じた最適化に関してはApple AR Kitに比べてやや課題が残るものとなります。
その他のAR開発プラットフォーム
その他、いくつかの著名な企業からAR開発を実現するサービスが提供されています。
(引用元:Amazon Sumerian)
「Amazon Sumerian」は、Amazonから提供されているARだけでなくVRや3Dコンテンツを手軽に制作できるサービスです。複数プラットフォームで利用することができ、プログラミング言語を必要としない点が特徴です。
(引用元:Spark AR)
「Spark AR Studio」は、顔認識を主として、SNS上で共有される動画や写真に対して誰もが簡単にARマスクをかけることができる開発ツールを提供しています。Spark AR Studioで作られたARはFacebookとInstagramで公開することができます。こちらはあくまでARの機能を限定されたアプリで利用するための開発ツールとなりますが、事前の知識がなくても始められるARアプリ開発のひとつと言えるでしょう。
ARと親和性の高いゲームエンジン
また、ARコンテンツを作るときに欠かせない3DCGコンテンツの制作や、ゲーム性などを総合的に開発できる環境が、ゲームエンジンにはそろっています。ただし、ゲームエンジンには、AR表示に必要な位置情報の特定などの機能は備わっていないため、単独でARアプリを開発することはできません。UnityやUnrealEngineなどのゲームエンジンは、前述したARCoreやApple AR Kitと連動させることができるので、コンテンツをゲームエンジンで制作したうえで、ARエンジンと連携するといった使い方が主流です。
AR制作を簡略化するプラットフォームの利用
ここまではゼロからARアプリを開発するために必要なエンジンについて紹介しましたが、そのほかに、より簡易的にARコンテンツを公開するために準備されたARプラットフォームを利用するのもひとつの手段です。ARプラットフォームでは、ある程度テンプレート化されたサービス事例をもとに、感覚的にARのコンテンツを作り上げることができます。作りたい内容に応じて有料オプションを購入していくスタイルが一般的で、月額や年額で課金することで、プラットフォームを利用することが可能です。まずはARで何ができるのかを知りたい方や、期間限定でARキャンペーンに取り組みたい方などは、こうしたサービスを利用しても良いでしょう。
ARアプリの活用の一歩を踏み出すために
ARアプリは様々な領域で活躍するとともに、ユーザーへの認知度も高まり、徐々に開発のハードルも下がりつつあります。自社のコンテンツやサービスを伝える手法としてARアプリを用いると、新たなユーザー層に認知を拡大できるかもしれません。まずは自社でARアプリと親和性の高いコンテンツがあるかどうかを検討してみると良いでしょう。開発に関しては、簡易的な機能を備えたものは誰でも気軽に挑戦できるものの、複雑な機能を備えたアプリや、複数プラットフォームに対応するアプリなどを作りたい場合、専門的な知識が必要になることは言うまでもありません。ARアプリがどのようなものなのかを理解できたうえで、専門のARアプリ開発企業に発信したい自社コンテンツとともに相談してみると良いでしょう。