本記事ではAR(拡張現実)について、その定義や仕組み主なサービスなどを広く紹介していきます。近年、XRと総称されるデジタル情報を用いた新たな表現手法や、それに関わる技術があらゆる領域で注目を集めています。そして、その注目は大手企業のサービスから地方自治体のプロモーションまで至るところに影響を与えるようになっています。そのなかの一つであるAR(拡張現実)について、定義や仕組み、活用事例などをご紹介します。
ARとは
ARとはAugmented Realityの略称で、日本語では拡張現実と称されています。何らかのデバイスを通じて現実にデジタルの情報を加え、いわば拡張された現実を作り出すことがARの定義です。ARは、自分が見ている現実世界のフィールドに、本来は存在しない情報を表示します。その技術を生かし、ゲームなどのエンターテインメントコンテンツをはじめ、インテリアや観光などの領域でもサービスが増えています。
VR・MRとの違い
ARと並べて語られる概念として、VRとMRがあります。ARとVR、MRの違いは何なのでしょうか?それぞれの特徴をARと比較してご紹介します。
VR(Virtual Reality・仮想現実)
VRとはVirtual Realityの略称で、日本語では「仮想現実」と呼ばれています。コンピューターで仮想の空間を作り、その中にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)などのアイテムを装着したユーザーが入り込むような体験を生み出します。VRを体験するためには必ずHMDが必要になります。視覚や聴覚が仮想空間を感じ、その中で何らかの操作をすることで仮想空間に没入する形が、VRとユーザーの基本的な関わり方です。VRはゲームコンテンツだけでなく、医療や不動産などの領域でも活用が進んでおり、コンシューマーだけでなく、企業向けのサービスも増加しつつあります。ARとVRの大きな違いに関して簡単にご説明します。VRが現実世界とは遮断された世界でユーザーが何らかの体験をすることに対し、ARは現実世界をベースとしたサービスやエンターテインメントを提供します。したがって、リアルタイムで現実世界の視界がなければ成立しないコンテンツはARが適しています。
MR(Mixed Reality・複合現実)
MRとはMixed Realityの略で、日本語では「複合現実」と呼ばれます。CGなどで作られた情報をホログラム投影などで現実世界に重ね、それらの情報を操作する体験などの一連が、一般的に語られるMR体験と言えるでしょう。ただし、MRの実用例はまだ少ないことに加え、ARやVRとの境界については諸説あるのが現状です。MRはARとVRを融合し、それらを発展させたものとして説明される傾向があります。現実世界をベースとしている点ではARと共通している一方、それがデジタル情報と連動し、操作性が高い点でVRと一致するからです。MRを実現するためのHMDや技術はまだ発展途上のものが多く、製品化やサービス化への期待が強まっています。
広がるAR活用の領域
ARは解釈の仕方によって様々なコンテンツやソリューションを提供することができるためターゲットも活用領域も極めて広いことが特徴です。広がりつつあるARの活用事例について、いくつか象徴的なものをご紹介しましょう。
アプリゲーム領域
(引用元:ポケモンGO公式サイト)
ARを用いたスマホアプリゲームは、多くのゲームユーザーに新しい刺激を与えています。現実世界のフィールドがゲームの進行に変化をもたらすため、ゲームの操作だけでなく、外出や旅行などを促進するケースもあるのです。後述でご紹介する「ポケモンGO」をはじめ、「ハリーポッター 魔法同盟、「フィッシングストライク 」など、ARはゲームジャンルを問わず多くのコンテンツに魅力を加えています。
観光領域
観光領域におけるAR活用は、訪問客に対する観光情報の提供や自動翻訳の分野において進んでいます。具体的には、その場所の歴史や地域の情報をリアルタイムでチェックしながら観光したり、多言語のテキストに自動翻訳をかけながらスムーズなコミュニケーションを取ったりと、ARは観光に関する補助的な情報を取得するのに役立ちます。
建築・土木領域
(引用元:SMART CONSTRUCTION)
ARでは現実で試用することが難しいものを仮想的に現実世界に表示させ、シミュレーションすることができます。この利点をうまく活用しているのが、建築・土木領域の現場です。例えば、小松製作所による「SMART CONSTRUCTIONプロジェクトでは、大型の建設機械を運用予定の現場にARで表示させることで運用に問題がないか確認したり、地形をスキャンして掘削・盛土部分をAR表示したりと、複合的なAR活用をしています。
小売(インテリア・ファッション)領域
(引用元:IKEA PLACE)
同じくシミュレーションが役立つ領域が小売業です。家具や洋服など、購入前に試したい商品をARで表示することで、ユーザーは安心して商品を購入することができるでしょう。こうした消費者向けのシミュレーションアプリは、そのブランドの商品を見る機会を増やすことにもつながるため、プロモーションにもつながるという点においても優れています。
エンターテインメント領域
(引用元:サラと謎のハッカークラブ)
近年、謎解きゲームなどの体験型・参加型のゲームが新しいアミューズメントとして広く人気を集めていますが、その中でもARを利用したコンテンツが誕生しました。代表的なサービスは、街のあらゆる拠点を巡り、謎解きをしながらストーリーを進める「サラと謎のハッカークラブ 」です。渋谷を舞台にストーリーを進行し、デバイスでARを表示させながら謎解きをする体験は、多くのプレイヤーに評価されています。こうしたコンテンツはエリア内の周遊効果を高めるため、地域おこしや店舗プロモーションに活用されるケースも増えていくことが予想されます。
ARの仕組み
次に、ARの仕組みについて説明をします。ARは、情報を表示させたい場所を特定することが技術の土台となります。基本的に、ARにおける位置情報は、周囲環境と自分の位置の2点から判断されます。正確な位置を認識することで、ARの表示する場所を設定できるのです。ARを特定の場所に表示させるための技術は、大きく分けて次の2つがあります。
ビジョンベースAR
ビジョンベースARは、画像や空間を認識することで情報を表示します。ARマーカーと呼ばれる正方形のコードを読み取ることでARを表示させるものは、「マーカー型」と呼ばれます。マーカー型は他と比較して簡単な仕組みでARを表示させることができるため、小規模な企画での利用や、個人でARを利用した何かを作りたいときに適しているでしょう。また、特定のマーカーが存在しなくても、イラストや建造物など既存のものをマーカーとして認識する「マーカーレス型」もあります。マーカー型同様、画像として何らかのオブジェクトを特定するため、基本的な仕組みはビジョンベースARに分類されます。「マーカーレス型」の場合、様々なオブジェクトにARを表示させることができる一方、背景が変わってしまうとマーカーとして機能しなくなるなどの条件があるため、事前に環境を確認することが必要です。
ロケーションベースAR
ロケーションベースARは、GPSで取得した位置情報に紐づけてARを表示します。ロケーションベースARは環境変化に関わらず、不変である位置という情報にARの情報を関連付けるため、環境変化に強い点が特徴です。ARマーカーを付与することが難しい屋外や、広い範囲で複数のARを表示させる企画などに適しています。ロケーションベースARは、周遊型のゲームコンテンツや観光アプリなどで用いられるケースが増えています。大規模なAR企画が実現できる可能性が増える一方、複雑な処理が必要である点と、周遊しながらデバッグをしなければならない点で、開発にはコストがかかる手法です。
2つのAR技術は併用可能
これらの2つのAR技術は組み合わせることができます。ビジョンベースARは印刷物や屋内でのAR表示に適しており、ロケーションベースARは屋外のAR表示に適しているため、それぞれの利点を併せ持つサービスやゲームもあります。
ARを使った代表的なサービス・活用事例
ARの利点をうまく生かしたサービスは、様々な領域で増えつつあります。そのなかでも、特徴のあるものをいくつかご紹介します。
Word Lens(Google)
(引用元:Google翻訳)
Googleから発表された「Word Lens」は、様々な言語をリアルタイムで翻訳するARアプリです。スマートフォンを他言語のテキスト情報にかざすと、視覚情報から得た言語を翻訳し、母国語で表示してくれます。現在はスマホアプリ版のGoogle翻訳にこのWord Lensの仕組みが使われています。本アプリを用いれば、海外旅行中に読めないメニューや表札を日本語で表示させることが可能です。対応言語は徐々に増えているので、世界中のテキストをリアルタイムで読める日は、そう遠くないかもしれません。
IKEA Place(IKEA)
(引用元:IKEA PLACE)
インテリアショップIKEAからリリースされた「IKEA Place」は、IKEAの家具配置をスマートフォンでシミュレーションできるアプリです。気になる家具を選択し、スマートフォンのカメラで自宅の空間を映し出すと、その家具を配置した状態がスマートフォン上に表示されます。家具の購入には寸法や色合いの確認など、手間のかかるプロセスがあります。それをARで解決するソリューションは、ユーザーの需要に沿ったものと言えるでしょう。
Pokemon GO
(引用元:Pokemon GO)
「Pokemon GO(ポケモンGO)」はARを利用したゲームコンテンツのなかでも特に大ヒットしたアプリです。現実世界の様々な場所にポケモンが現れ、そのポケモンを獲得することでユーザーはレベルを上げていきます。現実世界での移動がそのままゲームの進行や冒険につながる点で、まさに拡張現実の魅力を感じられるコンテンツです。
その他のARの活用事例
ARTimesでは、ARの活用事例を数多く紹介しています。各分野での他のARのサービス・活用事例をもっと知りたい方は以下の記事をぜひご覧ください!
- 医療
- ファッション・美容
- キャラクタービジネス
- スポーツ
- 不動産
- 製造業
- 物流
- 広告
ARを見るための端末は?
では、ARを楽しむためにはどのような端末が必要なのでしょうか?その種類を説明します。
一般的な端末はスマートフォン
すぐにARを楽しみたいなら、お使いのスマートフォンで試すのが最も早い方法でしょう。ただし、ARに対応した端末はある程度限られています。AndroidはそれぞれARに対応する端末を年々増やしており、比較的新しい端末であれば、多くの機種がAR機能に対応しています。Appleも同様にARへの対応を進めており、iPadなどのタブレットでもARを楽しむことができるようになりました。対応機種であれば、見たいコンテンツが指定するアプリをダウンロードするだけでARを見ることができます。
販売台数は少ないものの、開発が進んでいるAR HMD
(引用元:Magic Leap One)
このほかに、AR専用のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)も存在します。HMDとは頭部に装着することで視界にデジタル情報を表示させられるものを指します。ARメガネやARグラスと呼ばれているものはこれらのHMDを指します。ARは基本的にHMDを装着しなくても楽しめるため、スマートフォンの機能で満足するユーザーが多いのですが、両手で別の作業をしながらARで付加的な情報を確認する必要のある労働者などにはAR HMDが必要です。AR HMDはその機能の多様性からMR(Mixed Reality) HMDと呼ばれることも多いです。こうしたHMDの製品の代表的なものとしては、「Microsoft Hololens」などが有名です。加えて、Facebook、Appleやintelも開発中であることが報道されており、その機能や今後の実用性に関して期待がされています。
ARで提供可能なサービス
ARで提供可能なサービスは、極めて広範にわたります。具体的にどういったサービスを顧客に提供することができるのか、いくつかの事例を挙げつつ紹介します。
エクスペリエンスの提供とプロモーション
第一に挙げられるのが、拡張現実という近未来的な体験を通じ、顧客に感動を伝えるサービスです。キャラクターやストーリーを盛り込むことで、その感動体験は更に印象深いものとなるでしょう。更に、このエクスペリエンスの提供に重ね、様々な企業が広告を打てるのもARの特徴です。周遊性の高いフィールドコンテンツであれば、フィールド内にある店舗の集客効果を高めます。ARの情報を通じて、周遊するユーザーに魅力的な情報を見せることも可能です。ARを基盤としたプロモーションモデルが今後確立していけば、ARで見える世界は新たなメディアとしての可能性も秘めているかもしれません。
満足度の高い購入体験をサポート
ARを用いたシミュレーションは、あらゆる商品を購入前に確認できる安心感を顧客に与えます。購入してから後悔するケースや、購入前に検討を怠って断念してしまうケースを軽減することができれば、そのブランドへの信頼感や購買意欲は更に高まるでしょう。また、AR技術を用いて顧客とのコミュニケーションを活発化し、満足度の高い購入体験を生み出すことも可能です。不動産業界では、顧客が望む物件や土地について、エージェントがARアプリを用いながら説明し、利点やリスクを伝えるサービスなどが生まれています。
ARの市場規模
このように、ARはあらゆる企業で活用可能な、極めて柔軟性の高い技術です。ARに対して注目が集まっているのは国内だけではなく、欧米や中国では激しい市場競争も生まれています。その可能性を示唆するデータとして、今後のAR市場の予測について触れましょう。
市場規模は2023年まで成長する見込み
IDCの「AR/VR市場の予測」によると、ARとVRを併せた市場規模は2019年の168億ドル(約1.8兆円)から5年後の2023年は1,600億ドル(約17.3兆円)に上ると予測されています。その成長率は極めて高く、IoTなどの現トレンドに次ぐムーブメントを期待できる領域と言えるでしょう。特に成長が予測されているのは、企業の利用と公共投資の領域です。製造分野をはじめ、ARを用いた抜本的なシステムの改革を志す企業が今後ますます増えると考えられています。ARが導入されることで、トレーニングや設備メンテナンスなどの効率化が実現し、人手不足や遠隔地での作業に対するフォローなどの問題を解決できる可能性が高いからです。公共投資の面では、インバウンド施策や地域おこしなど様々な課題解決の糸口として、ARの技術が注目されていることが今後の予測につながっているようです。
AR/VR市場を率いるのは中国と米国
また、同調査では、2023年AR/VR市場の75%を占めるのは中国と米国であると予測されています。一方、成長率の点では西ヨーロッパが牽引しているというデータもあり、各国での開発競争は今後一層激化するでしょう。
コンシューマー向けの市場は?
現在注目度の高いコンシューマー向けの市場規模は、企業向けの市場規模と比較して予測成長率がやや低い結果となりました。ゲーム性を利用したプロモーションなどの可能性は十分に秘められていますが、純粋なゲームコンテンツの伸び率は落ちるかもしれません。
AR活用の可能性
ARの定義を確認すると共に、ARの仕組みや活用事例、ARが提供できるサービスの種類などを紹介してきました。ここまでの情報を総合してもわかるように、ARは限定的な技術ではなく、汎用性の高い技術です。現在も興味深い事例は数多く生まれていますが、それはほんの一部でしょう。これから、ARの特性を生かした新しいコンテンツは更に増えていくはずです。企業や地域は、ARを通じてユーザーの新規開拓や技術的な面での訴求力を高める効果などのシナジー効果を生み出すことができます。昨今極めて重要と言われているSNSマーケティングの領域から考えても、ARは拡散力が高く、ユーザーがシェアしたいと思えるコンテンツとして力を持つでしょう。様々な利点を兼ねたARは、自社商品や地域の魅力をどのように伝えたら良いか悩んでいる企業や自治体にとって、希望の光となる存在かもしれません。