AR/VR領域の発展は、資金調達もひとつの鍵を握ります。ベンチャー企業や注目のメーカーに対し、大手テック企業等が投資をする動きや、連携リリースも、AR/VR領域の今後を考えるためのひとつのトピックです。今回は、Facebookが関係するAR/VRの取り組みをご紹介します。
FacebookのAR/VR領域への投資や事業モデル
FacebookはVR領域への積極的な投資とサービス展開で都度注目を集めてきました。2019年の発表では、VR領域に対する投資の総額は180~200億ドルと伝えられています。そのサービス展開の主軸は、VRプラットフォーム事業です。FacebookのコミュニティをVR空間で体感することができ、ユーザー同士はアバターを通じて仮想空間のなかで会話を交わせます。こうしたVRプラットフォームサービスを展開するにあたって、Facebookはそのハードとなるヘッドギアセットへの投資も続けてきました。サービスとそれを楽しむためのハードウェアを両軸展開することで、よりカジュアルな技術としてVRコンテンツを世界中に広めていく意気込みを感じられます。
Oculusの買収
(画像引用元:Oculus)
同社の投資のなかでも特に注目されているのは、VRヘッドギア開発を進めていたOculusの買収から始まる一連の流れです。Facebookは2014年、Oculusを約20億ドル(※従業員雇用維持等、購入価格以外の買収額を合わせると約30億ドル)で買収し、VRプラットフォームFacebook Spacesの開発等に乗り出しました。Facebookは大幅な組織改革を行ない、Oculusがもともと目指していた事業展開やユーザー層のターゲティングなどを一新しています。
買収後のOculusの売上や動向
2017年、Oculusの創業者であったパーマー・ラッキー氏は現場を退きました。そこまでのOculusの成果は芳しいものではなく、Oculusの技術盗用疑惑に対してFacebookが5億ドルもの賠償金を支払うなど、バッドニュースが続いています。VR市場に対して高い熱量を持つFacebookですが、その根幹を担うものとして買収したOculusとはあまりうまくいっていないというのが現実でしょう。
Facebook Spacesの展開
Facebook Spacesは、Facebookから2017年に発表されたVRプラットフォームです。Oculus RiftとOculus Touch(ハンドコントローラー)によって体験できるコンテンツで、Facebookメッセンジャーと連動してVR上で友だちユーザーと通話をつなげるなどの機能が搭載されています。その後Facebook Spacesではソーシャルゲームを楽しめるコンテンツが追加されるほか、HTC Viveに対応するなど、ユーザーを増やすための施策が内外双方で展開されました。
Beat Gamesの買収
2019年11月、FacebookはVRゲーム「Beat Saber」の開発元であるBeat Gamesを買収したと発表しました。買収価格は非公開です。「Beat Saber」はVRで楽しむリズムゲームの代表的タイトルとして多くのファンから人気を集め、現在も各プラットフォームで展開中です。Facebookに買収されたことによって、今後Beat Gamesがどのようにタイトルを展開していくかは明らかにされていません。また、FacebookはこのリリースでもVRに対して積極的な展開を続けていくことを示唆するコメントを残しており、VRプラットフォームでのエクスペリエンスを向上させるゲーム領域にも踏み出すと考えられます。
Facebookが発表したAR/VRプロダクト
Oculus Quest
(画像引用元:Oculus)
2019年に発売されたOculus Questは、「オールインワンVR」という概念を押し出した広告と共にさまざまなECショップ、小売店などで展開されています。PCとの接続をすることなくスタンドアローンでVRコンテンツを楽しむこと自体はOculus GO(買収前のモデル)でも叶いましたが、今回よりキャッチ―なフレーズでそれを伝えることで、新規顧客層を獲得する狙いでしょう。今までコアなファン向けの商品として販売されてきたVR関連ハードウェアは、売上の点で成功が難しかったケースも珍しくありません。AR/VRの市場成長率予測では、BtoCよりBtoBでの利用のほうが成長の可能性が高いと言われています。そうした現状のなかで、一般消費者向けにFacebookがどのような戦略を立ててBtoCのVRビジネスを繰り広げるのかに注目が集まっています。
Oculus Questは128GBモデルで6万2800円で販売されており、公式オンラインショップからの予約だけでなく、Amazonなどからの購入も可能です。
Facebook Horizon
(画像引用元:Oculus)
Facebook Horizonは、2019年9月に発表されたFacebookの新たなVRプラットフォームです。この発表を機に、先述したFacebook Spacesや、Oculusの開発したプラットフォームOculus Roomsはサービスを終了することが決まりました。Facebook Horizonは、同空間でアバター同士がゲームを楽しんだり、クリエイティブな体験をできたりと、Facebook Spacesよりも一層没入感の高いVR体験を実現します。Facebook Horizonは今後「セカンドライフ」のような展開が広がると予想されています。仮想空間のなかに店舗を構えるなど、生活に関わる行為もバーチャル内で完結することができるでしょう。同サービスの課題は、ユーザー数をいかに増やすかにあるかもしれません。もともと個人が没入体験をするという制約から、ソーシャル展開が広がりづらいと言われているVRですが、Facebookが提供するVRプラットフォームは、仮想空間を複数人で共有し合うからこそ面白いコンテンツが充実していくはずです。コンテンツの魅力を最大限に感じるためには、周囲の人間が興味を抱き、Oculusを購入し、さらにその体験を口コミで広げていくステップを踏まなければなりません。リリースからいかにその拡散力を大きくしていくのか、注目が集まります。
Oculus Link
同じく2019年9月に発表されたOculus Linkは、スタンドアローン型のQuestをUSBでPCに接続することで、楽しめるコンテンツを拡張できる新機能です。スタンドアローン型のVRヘッドギアは接続するPCに制限されることなく自由度の高いVR体験をできるメリットがありますが、容量には限界があるため、専用コンテンツしか遊べない一面もあります。Oculus Linkを用いれば、Oculus対応のゲームであればPCから自由に選択し、遊べます。これは、すでに販売を終了しているPC用VRヘッドギアOculus Liftとほぼ同様の体験がOculus Questでも叶うことを意味します。
Facebook×VRの今後
Facebookは2014年より強気な投資や買収を繰り返し、VRプラットフォームを主軸とした新たなビジネスモデルを掲げて突き進んできました。一方、その巨額の投資に対する具体的な収益モデルは現在も見えておらず、VRに対してFacebookが強く関心を抱き始めてから5年経つ今、その矛先が正しいのか疑念を抱く声も少なくありません。2019年にFacebook Horizon、Oculus Linkという大きな柱を発表し、それらを体験するためのOculus Questの準備もできた今、課題となるのは多くのユーザーに利用を促すための効果的なプロモーションです。Facebookが思い描いた仮想空間でのソーシャルネットワーキングが、世界中の一般的な消費者にとってどう感じられるのか。そして、どのように社会を変えていくのか非常に楽しみです。