注目を集めるAR領域ですが、医療分野においても非常に有効な技術と言われています。医療にARを用いることで、難易度の高い手術や遠隔医療、患者との治療イメージ共有などがスムーズに行うことができます。今回は、ARを活用した医療系サービスや事例を紹介します。
AR技術とは
ARは拡張現実の略称で、実在している場所やモノにデジタルな情報を加える技術のことです。ゲームをはじめとするエンターテインメント分野での活用が目立ちますが、医療や物流といった業務の効率化にも用いられています。医療には高度な知識や技術が不可欠です。人間の知識や技術だけでは足りない部分をARで補うことで、より高度な医療を提供できるようになります。
AR技術を医療に活用した事例
ここからは、医療分野でARを活用した事例を紹介します。
GLOW800
(画像引用元:Leica公式サイト)
Microsystemsは、医療用デバイス「GLOW800」を開発しました。本製品は、AR技術によって患者の器官の様子を可視化し、脳血管手術の工程をサポートするものです。 AR蛍光システムとICG(医療に用いられるシアニン色素)を組み合わせることで、術部に色を重ねて表示します。これにより、周囲の血管や器官と術部を明確に見分けることができ、難解な手術を支援してくれるのです。 AR技術を取り入れた医療用デバイスの開発は、難易度の高い手術の成功率を高める一助となるでしょう。
STARプロジェクト
(画像引用元:STARプロジェクト)
STAR(System for Telementoring with Augmented Reality)プロジェクトは、遠隔医療を支援するプラットフォームを提供しています。公開されているデモ動画では、執刀医が別の医師に遠隔での指示を依頼しています。執刀医がモニターを患部に近づけると、遠方の医師との画面共有が可能です。遠方の医師は手元のタッチパネルに触れることで、切開するラインを指示できます。指示したラインはAR技術によって患者の術部に表示されるため、執刀医はそのラインに沿ってメスを入れ、適切に手術を行うことが可能です。 このような遠隔医療を支援する技術が発達すると、遠方の熟練医師による手術のサポートが実現します。日本においては、過疎地の熟練医師不足といった問題解決に役立つ可能性を秘めています。
遠隔診療ソリューション
NECソリューションイノベータ株式会社は、2018年7月に開催された「国際モダンホスピタルショウ2018」において、「電子聴診器とスマートグラスを用いた遠隔診療ソリューション」を参考出展しました。同社は、現場作業者をリモートで支援する遠隔業務支援システムを提供しており、本取り組みはその技術を医療分野に取り入れようとするものです。 同社が想定する遠隔診療では在宅患者のもとへ訪れた看護師が、スマートグラスを装着し、電子聴診器で在宅患者を聴診します。さらに遠方の医師がカメラの映像をパソコンで確認しながら、ヘッドホンで心音や呼吸音を聴き取ります。これにより、医師が直接訪問しなくても診療ができ、遠隔医療が促進されます。地方の医師不足が深刻な日本において、遠隔医療を支援する本取り組みは画期的であり、実用化が期待されます。
AR遠隔医療支援システム
サン電子株式会社は、2019年10月に開催された「第2回医療機器・設備EXPO」において、ARスマートグラス「Ace Real One」を使用した遠隔医療支援システムのデモンストレーションを行いました。 Ace Real Oneは、現場作業に対応したARスマートグラスです。映像や音声などの情報を、作業現場から遠方の本社へリアルタイムで共有できます。また、現場から届いた映像に本社が指示を加え、スマートグラスに送信することも可能です。 この技術を応用することで、遠方の医師が経験の浅い医師に的確な指示を出せます。そのため、遠隔医療や研修医育成につながる可能性を秘めています。
ProjectDR
(画像引用元:YouTube ProjectDR demonstration video)
カナダのアルバータ大学の研究チームは、「ProjectDR」と呼ばれるデバイスを開発しました。本デバイスは、骨や臓器など体内の映像を、AR技術によって人体の表面に重ねて表示できるものです。 CTやMRIなどで取得し生成した患者の体内映像を、本人の体に投影します。体の向きや動きに合わせて映像も自然に映し出されるため、医師の作業をサポートするのが特徴です。現在は、精度向上のための取り組みが行われています。日本で本デバイスが利用できるようになれば、新人医師の教育や手術計画の共有に役立つでしょう。
ヒューマン・アナトミー・アトラス2020
(画像引用元:App Store ヒューマン・アナトミー・アトラス2020)
VISIBLE BODYは、「ヒューマン・アナトミー・アトラス2020」というアプリケーションを提供しています。本アプリケーションではARを活用し、人体の詳細データを確認できます。性別ごとの3D解剖モデルを空間に投影することで、人体を細部まで知ることが可能です。また、筋肉や骨の動きもアニメーションで再現されるため、人体模型を用いるより深い理解を得られます。本アプリケーションは、医師の研修や手術計画共有に役立つと考えられます。
Kapanu Augmented Reality Engine
(画像引用元:Kapanuサイト)
スイスのKapanuは、歯科治療向けソフトウェア「Kapanu Augmented Reality Engine」を開発しました。こちらは、治療前の患者の口腔内を3Dスキャンし、装着予定の歯の3DモデルをARで表示できるものです。 AR技術の活用により、患者は事前に治療後のイメージを把握できます。患者とイメージを共有したうえで治療を進めることで、満足度の高い結果を得られるでしょう。
高度な医療に使われるARを、あらゆる場面で活用しよう
AR技術は、難しい手術や遠隔医療といった医療分野の課題を解決する鍵となり得ます。ARを用いた商品やサービスの開発や現場への実装は医療分野のさらなる発展に非常に重要な役割を果たしていくことが期待されています。