スマートフォンゲームなど、主にエンターテインメントの分野で浸透しつつあるAR(拡張現実)技術。近年では製造業などの工業分野でも導入が進みつつあり、生産性の向上やコストの削減に大きな役割を果たしています。しかし、スマートフォンなど、一般的な端末を利用するエンターテインメント分野のAR活用と比べ、製造業の現場にAR技術を導入しようとする際には専用デバイスを利用する場面が多くなります。そこで、今回は主に製造業の現場でAR技術を導入する際に活用される、ARグラスについて、そもそもARグラスとは何か、導入するメリット、現場への導入事例までご紹介します。
ARグラスとは
ARグラスとは、簡潔に言うと、現実を増強するグラス型のデバイスのことです。ARグラスは搭載されたカメラやセンサーで周囲の環境を分析し、それに即した情報をグラスのディスプレイ上に表示します。よくARグラスと混同されがちなスマートグラスは、情報をグラス型のディスプレイ上に表示する点でARグラスと同じですが、現実世界の情報を取得し、それと連動した情報を表示するものではないため、現実を拡張、増強するARグラスとは別物と言えます。
AR、ARグラス、スマートグラスについてはそれぞれこちらの記事でより詳しく解説しています。
製造現場にARグラスを導入するメリット
では、製造の現場にARグラスを導入する具体的なメリットはどのようなものでしょうか。
作業の効率化
ARグラスを導入すれば、これまで紙のマニュアルに頼って行っていた作業を、スマートグラスのディスプレイ上に表示された電子マニュアルを基にフリーハンドで行うことができます。加えて、実際の機器に、仮想的に情報を投影することで、立体図などで書かれた紙のマニュアルを参照するよりもより直感的に作業工程を理解することができ、作業全体の効率化につながります。生産現場での組み立て作業はもちろんですが、特に保守点検のシーンでは、異常を自動的に点検するなど、より効率的な作業を行えるようになることが期待できます。
コスト削減
ARグラスを活用することによって、遠隔地から視界を共有して問題を解決することができるため、技術者の移動コストやミーティングコストなど、さまざまなコストを削減することができます。
作業の標準化
AR技術は教育・トレーニングとの相性がよく、新人技術者の育成に役立ちます。製品の組み立てや点検方法のトレーニングにAR技術を導入することで、実際の現場を仮想的に再現でき、短時間での技術力向上が期待できます。また、高度なIT機器が導入され、現場で高度な技術が必要とされつつあるにもかかわらず、人手不足が深刻化する製造業において、新人の育成を効率的に行えるのは大きなメリットとなります。
AR現場支援サービス
ARグラスを含めたAR技術を活用して、現場を支援するサービスはたくさんあります。ここではそのうち一例をご紹介します。
AceReal for docomo
サン電子とNTTドコモは、ARグラスと5Gネットワークを組み合わせて、リモート環境から現場に的確な指示を出せる遠隔作業支援ソリューション「AceReal for docomo」を2020年から提供しています。現場作業者がARグラスから、現場の映像や音声を遠隔地にいる技術者にリアルタイムで伝送するほか、支援者が、マニュアルや作業指示が書かれた現場画像などを現場作業者のARグラス上に表示できます。
現場への導入事例
ここでは、ARグラスがどのように現場に導入されているか、実際の事例を細かく見ていきます。
製造業×ARグラス 国内事例
国内の、製造業の現場におけるARグラスの導入事例をご紹介します。
東京冷機工業(AceReal)
東京冷機工業では、サン電子のARグラス「AceReal One」と、業務支援ソリューション「AceReal Apps」を導入、現場作業の大幅な効率化を実現しています。
サービス・メンテナンス業務では、AceRealの遠隔支援ソリューションを活用することで、若手社員が通常1時間~1時間半かけて行う作業を15分で完了するなど、作業時間が1/4に短縮した事例もありました。
また、社員育成の場面でも、AR技術が活用されています。従来はベテランと新人社員の2人で現場に向かい、現場で実機を触る中で、新人社員がスキルを向上させていきますが、AceRealの導入により、新人が1人で現場に行き、ベテラン社員が事務所から、ARグラスを通した現場の映像を見て指示・指導を行うなど、新人育成の効率化も実現しました。
トヨタ自動車(HoloLens2 ホロレンズ)
トヨタ自動車ではマイクロソフトのARグラス、Hololens2を全国56トヨタ販売店に導入して修理、点検業務の効率化を図っています。従来のイラストや文字などの2Dデータを主とした修理書では、修理の正確な手順やノウハウを共有するのは困難でした。そこで、実車に重ね合わせて配線図を3D表示することで、部品の正確な位置を直感的に把握することが可能になりました。また、Hololens2を通して、現地の整備士の視界を遠隔地にいる本社の専門家と共有できます。音声会話に加え、空間内に情報を書き込むことも可能です。このコミュニケーション技術は作業の効率化だけでなく、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐという観点でも非常に有効です。
製造業×ARグラス 国外事例2選
国外の、製造業の現場におけるARグラスの導入事例をご紹介します。
Nestle
スイスの大手食品・飲料会社、Nestleは生産、研究開発の支援やサプライヤーとの協業の遠隔実施に、ARグラスの導入を進めています。
全世界に拠点を持つNestleは、各工場と技術者をさまざまなツールでつないでおり、現地に赴くことなく、サポートを可能にしています。これによって、作業を同時並行で進めることが可能になり、生産性も上がっています。
遠隔地の専門家が、ARマーカーや映像を用いて、現場にアドバイスを行うことで、製造ラインのセットアップや再設計、メンテナンスや装置メーカーとの機器点検などに活用しています。このような取り組みは新型コロナウイルスの流行で、国際的な移動が制限される状況下で、大きな意味を持ちます。
Airbus(HoloLens2 ホロレンズ)
ヨーロッパの航空宇宙機器開発製造会社、Airbusは2019年、AR技術を含めたMR(複合現実)技術を大規模に導入する計画を発表しました。AirbusはMicrosoftとパートナーシップを結び、MicrosoftのARグラス「HoloLens2」を利用して、製造ライン、人的トレーニングの両方でARグラスを活用していく予定です。
今後は、製造ラインの作業員が、複雑な作業を行うときのマニュアルの表示や、手が届きにくい場所で行う作業で、実際の危機の上にかぶせる形で説明や図を表示することが検討されています。これらのAR技術の活用により、品質を落とすことなく、製造にかかる時間を最大で1/3短縮することができる見込みです。
また、AirbusとMicrosoftはAirbusの顧客向けにもサービスの提供を始めており、メンテナンス要員や客室乗務員のトレーニング用に、日本航空にも提供されるという。
プレティア・テクノロジーズの製造業支援サービス
本WEBメディア「AR TIMES」の運営元であるプレティア・テクノロジーズ株式会社は、「ARクラウド」をはじめとしたアルゴリズム開発、および「AR謎解きゲーム」をはじめとした各種エンターテイメント及びソリューションを提供するスタートアップ企業です。
弊社は製造業の領域においても、タブレットを通して現場への遠隔サポートを行うことができるサービスを開発しており、製造業へのAR活用に関し知見と経験を有しております。
- 工場の作業効率を上げるためにARソリューションを導入したい
- 経験の浅い技術者の研修・支援にARソリューションを活用したい
- その他ARソリューションの利用に関して相談したい
といった製造業界の担当者の方はぜひ一度お問い合わせください。
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まとめ
このように、製造業の様々な現場で活用されているARグラス。デバイスの進歩に伴って、その可能性は日々大きくなっています。製造業の現場でARグラスが必須のものとなる未来も近いかもしれません。
そのほかの製造業のAR活用事例についてはこちらの記事で詳しく解説しています。また、自動車産業×ARについてもこちらで解説しています。ぜひご覧ください。